インフルエンザについて

<インフルエンザとは>
インフルエンザウイルスにはA型(香港型,ソ連型,2009年に発生したいわゆる「新型」),B型,C型があります.主にA型とB型が流行しますが,その年により流行株が異なります.
<症状>
主な症状は,5-7日間の高熱,寒気,全身がだるい,食欲がない.頭痛,手足の筋肉痛,
関節痛 腹痛,吐く,下痢,のどの痛み,鼻みず,咳です.典型的な熱型は2峰性です.3-4日高熱が続いて(1つ目のヤマ),一旦下がり,その後再び発熱して(2つ目のヤマ),やっと熱が治まります.普通の風邪よりも症状が強いのが特徴です.
<診断>
インフルエンザの診断には,迅速診断キットを用います.A型とB型を同時にかつ別々に判定できます.
*微熱あるいは高熱でも発熱直後にはウイルス量が少ないため,陽性を示しません.このような場合には,翌日の再検査が必要です.高熱が生じて一晩経過すると陽性を示すことが多いので,受診のタイミングが大切です.
<治療>
1.タミフル:
*タミフル服用後の異常行動による事故が報告され,厚生労働省は10-19歳のインフルエンザ患者に対してタミフル投与を原則として禁止しています.しかし,「タミフル服用後の事故=タミフルが原因である」というわけではありません.現時点ではタミフル服用と異常行動の因果関係は証明されていません.2007年12月,厚生労働省研究班は,「タミフル服用群における異常行動は非服用群よりも少なかった.」という疫学調査の結果を発表しました.その後,10-19歳患者へのタミフル投与禁止が解除されるはずでしたが,厚生労働省の作業が進まずに現在に至っています.現時点では,1-9歳と20歳以上の年齢層にはタミフルを処方することができます.ただし,タミフルの服用にかかわらず,インフルエンザを含む高熱疾患では,熱せん妄(うわ言,夢中歩行,飛び降りなどの異常行動)が起こることが以前より知られています.インフルエンザと診断された場合には,様子をよく観察し十分に注意をしてください.
*0歳児へのタミフル投与については,臨床試験等の実施が困難なため十分な解析データがなく,添付文書に「1歳未満の患児に対する安全性及び有効性は確立していない」と記載されています.実際に0歳児へ投与した症例の集計では,問題はありませんでした(小児感染免疫:vol.17,no.2,87,2005).実地臨床では,0歳児への使用は禁忌ではないため,医師の判断でタミフル使用による有益性が危険性を上回ると判断された場合に保護者が同意をすれば処方を受けることができます.

2.リレンザ イナビル:
*パウダーを吸入するタイプの治療薬です.息止めをする必要があります.通常は5歳以上で且つ上手に吸入できそうな場合に処方します.10-19歳ではタミフルの処方が原則禁止されているので,リレンザ,イナビルを処方します.
#タミフル,リレンザ,イナビルは発病後48時間以内に使用しないと効果がありません.
#症状や周辺状況からインフルエンザが強く疑われる場合には,インフルエンザ迅速診断キットで陰性でも抗インフルエンザ薬を処方することがあります.
<解熱剤>
インフルエンザの発熱に対する解熱剤は,第1選択がアセトアミノフェン(アンヒバ・アルピニー坐薬,カロナールなど),第2選択がイブプロフェン(ブルフェンなど)です.これらの解熱剤は安全です.
*アスピリン,サリチル酸を含む製剤(市販の成人用バファリン,医家用のバファリン,PL顆粒,幼児用PL顆粒など)は使用しないで下さい.ライ症候群という急性脳症になることがあります.また,ジクロフェナク(ボルタレンなど),メフェナム酸(ポンタールなど)はインフルエンザ脳炎・脳症を悪化させる可能性があるので,使用してはいけません.
<家庭で気をつけること>
(1)休む:とにかく安静が一番です.
(2)保温:厚着をしたり,こたつにもぐり込む必要はありません.寒くない程度の暖房で十分です.高熱時に温め過ぎると,「うつ熱」になり,かえって体力を消耗します.少し涼しいくらいの方が熱は発散します.
(3)冷却:高熱時には薄着にして,布団や毛布を1枚減らし,アイスノン等で体を冷やして下さい.大きなアイスノンをわきの下,首筋,股にあてると,熱が下がります.頭を冷やすと気持ちはいいですが,熱を下げる効果はそれほどありません.頭を冷やすのは日本人だけです.熱さまシートは気持ちがいいだけで,解熱効果はほとんどありません.
(4)食事:ぐったりして食欲がなくなります.お子さんの好きなもので消化のよいものを与えましょう.水分を十分にとるように心がけてください.汗や尿とともに体から熱が逃げていって,熱が下がりやすくなります.経口補水液(OS-1,アクアライトORS)がよいでしょう.番茶やジュースには塩分が含まれておらず,市販のスポーツドリンクは塩分濃度が十分でないため,脱水予防や改善には不適当です.
(5)入浴:高熱でぐったりしている時以外はお風呂に入ってもかまいません.疲れないように気をつけて,お風呂でサッパリするのはかまいません.
<合併症>
1.熱性痙攣 
インフルエンザは高熱のため,熱性痙攣を起こすことがあります.過去に熱性痙攣の既往のある方は,ひきつけ止めの坐薬(ダイアップ坐薬)をあらかじめ準備しておいて下さい.当院で処方します.
*インフルエンザでは高熱の前に悪寒(ひどい寒気),戦慄(ブルブル震える)が生じます.高熱の出る前には体温中枢と実際の体温にずれが生まれます(悪寒).このギャップを埋めるために,筋肉をブルブル震わせ熱を産生します(戦慄).意識があるので痙攣(ひきつけ)とは違います.慌てないでください.
2.インフルエンザ脳炎・脳症 
インフルエンザの合併症で最も恐ろしいのはインフルエンザ脳炎・脳症です.発熱後48時間以内に発症します.痙攣,意識障害が起こります.死亡するか,命が助かっても後遺症が残ることがあります.
*インフルエンザ脳炎・脳症は痙攣で発症することが多いので,単なる熱性痙攣なのか脳炎・脳症の始まりなのかを最初から区別することはできません.痙攣を短時間に繰り返す,痙攣時間が長い,意識障害が強い,うわ言などおかしな様子がある場合には,脳炎・脳症の可能性があるので入院が必要になります.
3.インフルエンザ肺炎
インフルエンザの合併症で最も多いのは肺炎です.熱と頑固な咳がいつまでも続きます.肺炎が重症化して呼吸困難に陥り,入院加療,酸素投与,人工呼吸器の装着などが必要になることがあります.
<保育所・学校>
学校保健安全法により,「発症した後5日を経過し,かつ,解熱した後2日(幼児では3日)を経過するまで」は,出席停止です.